楽天証券国重惇史社長楽天証券の国重社長がロイターのインタービューに答え、収益を圧迫してもまだ手数料の値下げを実施する余地があるとして、一段の手数料引き下げに前向きな考えを示したそうだ。個人の委託売買代金シェアを25%まで上昇して、イー・トレード並みにしたいとのこと。

 国重社長はロイターとのインタビューで、8月に実施した手数料引き下げにより、月間ベースで約2億5000万円の収益減少(営業収益ベースでは約2億3000万円の減少)、四半期ベースでは約7億5000万円のマイナスが生じると説明した。

 一方、手数料引き下げにより顧客は増えるため、「約半年後には手数料引き下げ分の(収益の)マイナスを埋めることができる」(国重社長)という。

 楽天証券は現在、「月間ベースで8─9億円の(経常)利益が上がっており、仮にマーケット環境が悪くなったとしても(手数料引き下げで)2─3億円は減ってもまだいける」(国重社長)と述べ、さらなる引き下げに前向きな姿勢を示した。

 手数料引き下げを武器に楽天証券の個人の委託金額に占めるシェアは2005年4─6月期に11.9%と、松井証券<8628.T>(11.2%)を抜いて業界2位になった。イー・トレード証券はシェア24.9%で首位を維持しているが、国重社長は、「楽天もイー・トレードくらいのシェアを獲得したい」との展望を示した。

 かねてから検討している楽天証券の上場について国重社長は、「上場すると、目先の四半期業績にこだわらざるを得なくなる。手数料引き下げもしにくくなる」とマイナス面を指摘した。

 楽天<4755.Q>グループの中にある「信販会社や証券をまとめて金融持ち株会社を作る可能性もあるが、コングロマリットディスカウントが発生する可能性があるため、上場するなら楽天証券単体になるだろう」とした。ただ、「現段階では競争が厳しいので、それを突き抜けるまでは上場していないメリットを最大限に活かす」と述べ、今年度中の上場の可能性は低いことを示した。

 証券業界では、大手もネット戦略の強化に動いており、大和証券がネットサービスの手数料を松井証券並みに下げたほか、野村証券もこの秋、ネット取引のサービスを刷新する計画で、対面証券会社が巻き返しを図ろうとしている。

 こうした動きについて国重社長は、「周回遅れで国立競技場に入ってきたマラソンランナーのよう。並んで走っているように見えるがよく見たら周遅れているというような感じ」とコメント。

 ただ、ネットで株取引する新規顧客が増えるきっかけになり、業界全体のパイが広がる可能性が高まるため、「(大手証券の動きは)歓迎している」という。


先月末に、イー・トレード証券の佐藤執行役員が日経CNBCに出演し、「今後、数十円単位の引き下げはあるかもしれないが、100円、200円という大幅な下げは考えにくい。」と発言していたので、これ以上の値下げは期待できなそうな雰囲気があったネット証券業界だったが、ロイターの国重社長の発言がそれに対する反論と受け止めれば、三桁の値下げはまだありうるのかもしれない。10月からの値下げにより、楽天証券は四半期ベースで8−9億の利益だったのが、それから2億5千万減る。結果、6億になったとしても、シェアを10%から25%にすれば、全体のパイが変わらなかったとして、単純計算で利益が15億になる。よって、利益が2.5倍に増えて、信用金利収入も増える分、まだ値下げ余力はあるという計算のようだ。

問題は、シェア25%を実現できるかという点だが、かなりハードルが高い目標のように思われる。もちろん、イー・トレード証券がここまでこれたのと同様に値下げによって新規顧客の売買代金シェアで他社をリードすれば、不可能とも言い切れない。

データがないので実際のところはわからないが、長年ネット証券を使っている人については、最近の手数料値下げ競争による民族大移動はほぼ済んできた感があるし、これ以上の値下げに反応するとは思えない。新規顧客分で他社をどれだけリードするかというのが、イー・トレード証券と楽天証券のシェア争いの勝負の分かれ目になる。それは、最近の手数料値下げが与えている影響が、売買代金のシェア伸びよりも、口座開設件数の伸び対するほうが大きいことからわかる。まず口座開設が伸びて、その積み重ねで売買代金のシェアが後から少しずつ増えていっている。

楽天証券の月間の口座開設件数はここ数ヶ月間急増しているが、まだイー・トレード証券よりも低いので、早くこれを追い越さなければ、シェアの差はつめられないだろう。

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