まさかジェイコム株誤発注が引き金になるとは・・・ネット証券にとっては、思っても見ない展開となった。ネット証券評議会の4社の再三の要求を何度も断ってきた東証がここにきて方針転換するのは何故なのだろうか。

まずはシステムの問題が当然ある。ネット証券評議会は前場9時に集中する注文数を分散させるために、サラリーマンが参加しやすい夜間に取引を行うことを主張してきた。以前は、システムに余裕があったため無視してきた東証も、相次ぐシステム障害や衰えの見えない個人投資家の注文・取消・訂正の嵐にとうとう根を上げたということだ。では、夜間取引ができれば朝の注文が本当に減るのだろうか。今のシステムに負荷をかけている原因は、個人投資家の取消・訂正が増えていることと言われているが、朝取引が開始される前にサラリーマンなどが出しておく注文は、その後、取消・訂正はあまりないはず。そういう意味では、効果は限定的かもしれない。ただし、取消・訂正が増えるのは寄付から30分間ぐらいの株価のボラティリティが高いためと考えると、夜間取引が価格変化の吸収することにより、朝方の価格変化率を抑えることができるかもしれない・・・という見方もできる。

システム以外の原因としては、今の東証の経営者自体が夜間取引に消極的だったからではないかということだが、これは本当かどうかはわからない。むしろ影響が大きかったのは、野村證券をはじめとする、総合証券勢が夜間取引已む無し論に傾いたことかもしれない。今年に入ってから大和證券がネット取引の手数料値下げに踏み切ったり、野村證券がネット証券を設立するという動きが出てきているほか、ITバブル期に一旦オンライントレードを始めたものの、不況になって対面に戻っていた大中証券会社が、再びネットの比重を高めてきている。今まではシステム障害はネット証券だけの問題だと思っていたふしがあったはずだ。しかし今となっては、ネット証券のような大規模な投資はできないけど、朝の取引が集中する時間帯のトラフィック増加だけはなんとかできないかと思っている証券会社のオンライン取引部門もあることだろう。証券会社によっては他の時間はシステムは何の役にも立っていないが、9時台だけは会社の稼ぎ頭になっているというところもあると思われる。最近では新光証券がネット取引に力を入れるニュースがあったが、もはやネットが最重要なチャネルになってしまっているのである。非ネット専業勢の態度が変化したことは東証の態度にも影響があったことだろう。

そういえば、東証が夜間取引を始めるということになれば、他の証券会社も追随しなければならなくなるはず。大証だって、日経平均が夜動くのに、日経平均先物の取引を行わないわけにはいかなくなるはずだ。(SGXとCMEはあるけど)

さて、夜間取引がはじまるとすれば、ネット証券にとっては、またとないビジネスチャンスとなる。掲示板上での夜間取引の反応はそれほどよくないが、これは今まで株式投資をする環境に恵まれていた人がほとんどだからだ。夜間取引をきっかけに株取引を始める人というのは、まだ株式投資をしたことがない、関心すらない人がほとんどなのである。今まで捕捉することができなかったこの顧客層がネット証券を使うことになれば、当然ネット証券業界には大きな利益がふってくることになるだろう。今まで株取引をしていた人にとっても、流動性の向上はうれしい話しだし、自分よりも相対的に経験の浅い取引参加者が増えることは決して悪い話ではないはずだ。

ネット証券の中には夜間限定の格安手数料を設定するところもでてきて、ここでも手数料競争が起こる可能性はあるだろう。気になるのはマネックスナイターの今後と、PTSをしようとしていたライブドア証券+インタートレード社。東証が夜間取引を開始できるのはかなり先なので、まだいいけど、PTSへの投資はあまり必要なくなってきそうだ。

夜間取引開始で、負荷分散・サラリーマン層開拓チャンスといいことずくめなネット証券業界になりそうだが、やっぱり品質を維持してこその夜間ネット取引だ。夜のバッチ処理ができる時間も短くなりそうだし、コールセンターの夜間受付も必要。今までの顧客も満足のいく安定したサービスを提供し続けてほしいものだ。もちろん証券取引所も。