業界で初めてのオークション方式による夜間取引市場の開設を発表したカブドットコム証券ですが、直後にSBIイー・トレード証券と楽天証券が共同でPTSの準備をすることを発表したため、1日天下だったとも言われています。カブドットコム証券が同じネット証券評議会のメンバーである両社とは別に夜間取引市場を作ることにした理由は何なのか。
国内初、競売買(オークション)による私設取引システム(PTS)業務の認可取得(カブドットコム証券) カブドットコム証券は、7月11日に内閣総理大臣から「競売買の方法による証券会社の私設取引システム(PTS)運営業務の認可」を取得しています。プレスリリースを読むと、システムを福岡に設置し、大規模災害への備えができていたり、売買監視システムを高度化したり、PTSに関する特許を出願したりと、周到な準備をしていることがわかります。売買監視システムについては、東証が次期システムのヒントになればと社員を7月初めから2週間派遣したというニュースがあったので、業界内で一定の評価を得ているのかもしれません。 カブドットコム証券はかなり前から夜間取引市場(PTS)の準備をしていたと考えてよいでしょう。協同開発をしたインタートレードのプレスリリース(PDF)によると、1月頃に受注しているようなので、その頃にはすでにPTS開設の方針が固まっていたと思われます。 では、なぜネット証券評議会の他社と合同ではなく、独自にPTSを作ろうとしたのでしょうか。今回、SBIイー・トレード証券と楽天証券が早速対抗していますが、カブドットコム証券側がそういう動きが出てくることが予想できていなかったとは思えません。(ネット証券評議会の他社が集まれば50%から60%のシェアが集中して、kabu.comPTSが流動性の面で不利な状況になるかもしれません。)それでも自社で市場を作ることにしのには理由があると思うので、ニュースや他の人のブログにあるものも含めて、思いつくだけ上げてみました。 ・システムや運営で主導権を持つ方がいいと考えたから 複数社で寄合い的な組織を作ると昔の会員制の取引所のようになって決断が遅くなり、機動的なサービス拡充や機能追加、システム増強が難しくなると考えた可能性は高いと思います。 ・ネット証券評議会の意見がまとまらず開始までに時間がかかると思ったから これも可能性がありそうですね。松井証券がSBIイー・トレード証券と楽天証券の連合に現時点では参加していないように足並みが乱れているために、カブドットコム証券が独自に始めることを発表しなければ、SBIイー・トレード証券と楽天証券の行動ももう少し後になっていたと思います。 ・東京三菱UFJグループ関連法人の参加が見込めるから 同じグループ内には、東京三菱UFJ銀行や三菱UFJ証券、投信、信託などの金融機関があるので、それらにも夜間取引に参加してもらうようなことがニュースに載っていました。カブドットコム証券は他社の参加を否定していませんでしたから、グループ内外の機関投資家の参加が期待できそうです。国内の機関投資家に限れば、SBIイー・トレード証券と楽天証券よりも三菱UFJグループがバックにいるカブドットコムの方が有利かもしれません。 ・東証が夜間取引を開始することを見込んで、あえて独自に 全然、ニュースでは触れられてなかったんですが、東証が夜間取引をやっぱりやってしまう可能性もあると思うんですよね。SBIイー・トレード証券と楽天証券の連合が後から追ってくるのも脅威ですが、東証が次期システムを完成させて余裕ができて、さらに自前でできない証券会社が東証の夜間取引を望んだりすると、東証がネット証券に競争を挑んで夜間取引を始めてしまうというケースも考えられるわけです。もちろん、PTSがあるから東証はやる必要がないということになるかもしれませんが。どちらにせよ、カブドットコム証券としては今まで東証に批判的な立場をとってきたネット証券評議会のつくるPTSに参加するよりも、あくまで取引所の補完的市場として既存の取引所と連携の道を模索した方が得策と考えたのかもしれません。TOPIX先物を扱っていることや、東証の社員の研修を受け入れていることだけで推測するのはどうかという気はしますが、他社よりは連携の余地はありそうなので、指数の算出やETF・先物の取扱い、コンプライアンス面で取引所とPTSの連携は比較的進めやすいと思います。 とはいえ、やっぱり流動性がkabu.comPTSの課題であることは否めないわけで、先行している分できるだけリードしてしまう必要があるでしょう。まぁ一部上場企業で三菱UFJグループが大株主なので、けして無謀な挑戦ではなく、それなりに勝算のある戦略があるのでしょう。 結論としては、ネット証券各社がそろってということにできなかったのは残念だったものの、SBIイー・トレード証券と楽天証券のPTSがまだ全然具体化されていないのに比べれば、意外と早くオークション方式の夜間取引を実現させてくれそうだということは、投資家側としては十分評価していいんじゃないかなぁと思います。 そういえば、これも全く話題になっていないのですが、夜間取引ができるようになると為替証拠金取引から株取引に少なからず投資家が移動するような気がするのですが、オンライン為替証拠金取引業者とかはどれぐらい危機感をもっているのか少し気になるところです。
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