7月23日(日)付けで、産経新聞のSankei Webに「カブドットコム証券が逆指値の特許使用料請求を検討」という朝刊記事が掲載されていました。昨年特許権を取得した「W(ダブル)指値」、「±(プラマイ)指値」の特許使用料を請求する検討を進めていることが22日(土)にわかったそうです。(しかし、なぜ土曜日なのか)
カブコム、逆指値の特許使用料請求を検討(Sankei Web) まだ産経新聞しか報道してないぐらいの話題なので、もしかしたらカブドットコム証券から、未決定事項ですというプレスリリースが出てくるかもしれませんが、7月24日(月)の第1四半期決算発表でこの件についての説明があるかもしれません。 さて、産経新聞は「逆指値」と見出しに書いていますが、実際にカブドットコム証券が取得している特許は、一般的な逆指値ではありません。取得しているのは「±指値」、「W指値」、「Uターン注文」に関する2つの特許で、内容はカブドットコム証券のホームページによると以下のとおり。
●特許第3734168号 (±指値)
自動売買を執行するための発注システムにおいて、「始値・終値・約定価格」といった発注時点ではまだ確定していない価格を監視して、条件付注文における発注の条件と指値を確定した価格を基準に自動設定する±指値(プラマイさしねR)の技術に関する特許 ●特許第3754009号(W指値、Uターン注文) 自動売買を執行するための発注システムにおいて、発注時点ではまだ確定していない他の注文の約定価格等を監視して、W指値R注文における訂正条件と指値を自動設定する技術(W指値Rの利益確定とロスカットの幅を自動設定するUターン注文Rに採用)に関する特許
知的財産権/カブドットコム証券 現時点で上記の特許に抵触する可能性があるのは、マネックス証券の「ツイン指値」、「リバース注文」、楽天証券の「逆指値付通常注文」、タイコム証券の「OCO(One Cancel the Other)注文」、「IF・DONE注文」等の特殊注文サービスだと思われます。 ■ 逆指値・ツイン指値/マネックス証券逆指値注文について 楽天証券タイコム証券株式会社 特殊注文 産経新聞の報道によると、各社個別交渉でライセンス料を受け取り、新たな収益源としたい意向ということですが、対象になる会社では上記の特殊注文による売買が取引全体に占める割合がまだ小さいと思われ、仮に今すぐカブドットコム証券がライセンス料を取ることになったとしても手数料を値上げしなければならないほどの金額にはならないのではないでしょうか。 なお、産経新聞の記事に書いている、「オリックス証券や岩井証券も8月から同サービスを始める方針」の件については今のところ、通常の逆指値に加えて「±指値」、「W指値」、「Uターン注文」に類似する特殊注文サービスも提供されるという情報がないので、特許に抵触するかどうかはわかりません。 ■ オリックス証券>プレスリリース/「逆指値」注文の取扱開始について岩井証券 | 「逆指値サービス」を開始! また、松井証券やイー・トレード証券も逆指値導入を検討しているそうです。 6月25日の松井証券の株主総会で松井道夫社長は、他社が先行している逆指値サービスをやってほしいという質問に対して以下のように答え、遥か前に考えていたけどあえてやらず、現在進行形で準備していると述べています。
「多くのユーザのみなさんから要望をずいぶん前から受けています。もちろん全然対応してないわけではありません。それなりに一生懸命やっています。なんで松井証券パイオニアだったのにこういう事をどうしてやらなかったのか。松井証券はカブドットコムがやる遥か前にこれを考えておりました。所謂これはストップロスオーダーです。アメリカでは当たり前です。信用取引でこれが大事な問題になっていることは、彼らが考えるずっと以前に考えていました。言い訳するつもりはありませんけど、当時、他の証券会社が悩まなくて松井証券だけが一番悩んでいたのが、まさに今問題になっている注文のキャパシティです。当時他の証券会社は、注文のキャパシティは全く無関心でした。松井証券の何分の1、例えばイー・トレードは松井証券の5分の1でした。カブドットコム証券についてもほとんど無視できるぐらいの小さな存在でした。そういった中で逆指値がどのぐらいシステムに負荷をかけるか大いに検討しました。大いに検討した結果、これはもしかしたら間違えたかもしれません。お客さんの大きなニーズを取り違えたのかもしれません。でも今でも覚えていますけど、それよりはシステムの安定性が大事だった。こういう結論を出したんです。もちろん当時と今とでは技術のレベルが違いますし安定性におけるハードルは違っております。一概に比較は言えませんけども、当時の判断でも今の判断でも何にウェイトを置くのかを議論しやった結果が2番目3番目になったということです。ただ現在はニーズが多いということは十分承知していますから、システムの安定性がどうのこうのと言っても、なんだそれはと言われることは十分承知していますから、これをどういう形で導入するか、イー・トレードも同じような状況だと思いますけども、結論を出すというよりも、現在進行形でいろんな準備をしております。」
同様に、6月29日のSBIホールディングス株主総会後の経営近況報告会で北尾吉孝CEOは以下のように述べ、イー・トレード証券も逆指値サービスを準備していることを表明しています。
「(イー・トレード証券で)条件付注文の拡充ということで、逆指値等々今やっていないことをやっていこうと準備をしております。」
SBIホールディングス経営近況報告会 (動画・1時間45分)SBIホールディングス経営近況報告会(プレゼン資料) (PDF・2.16MB) (逆指値については33ページ目に記載) 松井証券、イー・トレード証券の両社とも「±指値」、「W指値」、「Uターン注文」まで提供するか現時点はわかりませんが、カブドットコム証券がライセンス料を要求することになれば多少今後の戦略に影響があるかもしれません。 さて、産経新聞の記事では、カブドットコム証券は証券会社に対してライセンス料をとることを検討と書かれていますが、証券会社以外でも株取引の逆指値を実現させるものがネット上には存在しています。 例えば、ますぷろ氏作のフリーソフト「ETWrapper」。これは、アラートメールか楽天証券のリアルタイムスプレッドシート(RSS)を使って投資家のパソコン上で株価の監視をすることでイー・トレード証券で逆指値を実現できるようにするソフトです。今のところ一般的な逆指値ができますが、将来的には「リバース注文」の実装も検討しているようです。カブドットコム証券の特許には抵触しないと思われますが、抜け道としては有効なアイデアかもしれません。 ■ ETWrapper また、オートマチックトレード株式会社という会社が個人投資家向けに自動売買のASPサービス「オートレ」を提供しています。これは、投資家に代わって指定銘柄や事前設定に基づいてシステムトレード(完全自動売買)をロボットがやってくれるというサービスで、コスモ証券やライブドア証券に対応しています。このサービスでは逆指値に加えて、「始値±指値」や「終値±指値」のような執行条件があるため、カブドットコム証券の特許によるライセンス料徴収がオートレのような第三者サービスにも適用されるのかどうか少し気になるところです。 ■ オートレ カブドットコム証券が特殊注文サービスにかんする特許のライセンス料を請求することを検討している(事実かは不明ですが)ことの背景には、(2年連続で特許について株主総会で株主から質問されていたこともあるかもしれませんが)、マネックス証券がロボットの売買による投資信託を検討したり、他社が逆指値導入を検討したりしていて、少しずつですが自動売買に関するニーズが高まりつつあるということがありそうです。 証券業界では、金融ビックバンの以前から今までビジネスモデルを独占したり、他社からライセンスを請求するような例はほとんど聞いたことがなく、どちらかというと商売のネタは共有するという風潮があったと思います。はたしてカブドットコム証券はそんな風潮を打破して特許を自社にとって有利に活用できるでしょうか。
カブドットコム証券