ついに、松井証券が9月4日から無期限信用取引の売買手数料を完全無料にすると発表しました。業界最低水準どころか、業界史上最低ですね。その代わり、買い方金利と貸株料を4.6%に引き上げるそうです。
手数料の改定について〜無期限信用取引の手数料を完全無料に〜 【詳細】無期限信用取引の手数料完全無料化について 以前から、松井証券が信用取引の手数料を無料にして金利を得るビジネスに転換するのではないかという話はぽつぽつ出ていましたが、いよいよ実行に移してきましたね。 まずは、そもそもビジネスとして本当に成り立つのかどうかを検証してみたいと思います。 松井証券のホームページの決算報告資料2007年3月期 第1四半期の2ページ目に「金融収支によるコストカバー率は77%」と書いてあります。これが、どういう計算結果でそうなったのかというと、まず2006年4月から6月の3ヶ月間の信用取引での顧客への融資などによる金融収益が42億円。逆に松井証券が金融機関などから借り入れたことによる金融費用が7億円。あわせて金融収支が+36億円です。それに対して、松井証券の3ヶ月間のコスト(販売費および一般管理費)が約47億円なので、コスト/金融収支=77%ということになります。今年の4月の値下げの前までは、松井証券は手数料が高いから、あんなに儲かっているんだと言われていて、確かにそれもあったと思いますが、実際は営業収益の36%は金融収益が占めていて、それはコストを全部カバーできるところまではいかないまでも、純利益(第1四半期38億円)に匹敵するぐらい貢献していたわけです。 一方で、手数料を無料にすることで失う収益を計算してみるとどうなるかというと、同じ第1四半期の委託手数料が現物・信用あわせて69億円となっています。で、松井証券の開示データをもとに、2006年4月から6月の売買代金の現物・信用の割合を計算すると、現物36%・信用64%なりました。さらに決算報告資料2007年3月期 第1四半期の13ページ目に「買い残高のうち無期限信用取引残高の比率は31%」と書いているので、(これをそのまま使うのはやや正確性に欠けることになるかもしれませんが、使ってしまうと)、手数料収入の約20%を無期限信用に依存していたのだろうと推測できます。よって無期限信用の手数料収入を捨てると仮定した場合、2007年3月期第1四半期実績で試算すると営業収益の12%に相当する約14億円を捨てることになります。 ということで、手数料無料化により失う12%分を無期限信用取引の金利収入の増加で補う必要があるわけです。今回の発表で買い方金利が3.3%から4.6%に、約4割引き上げられるので、単純に第一四半期の金融収支42億円が4割増しになると考えれば、16億円増えることになります。全部松井証券の自己資金で融資しているのであれば、十分穴埋めできるような感じがします。 さて、松井証券は信用取引の日計り手数料無料サービスの撤廃を同時に発表したので、実質的に、「短期売買は制度信用ではなく、無期限信用でやってください」と、無期限信用の利用を促す政策を行うようです。無期限信用取扱い開始からこれまでは、無期限信用の利便性によって、手数料収入を増やして、ついでに金利も少しもらうという戦略だったのが、他社がまねして利便性に差がなくなったので、ここで一気に手数料を捨てて無期限信用の金利収入を収益の柱にしてしまおうという戦略に切り替えたことになります。 マーケティング的には、去年大和証券が、松井証券と同水準の手数料で低金利の無期限信用取引のサービスを開始したものの、あまり効果がなかったことなどもあり、手数料の差に比べると金利の差に投資家はあまり敏感ではなく、ついでに最近他社の信用取引の金利引き上げが相次いでいることから、金利4.6%という数字による営業的にな影響はあまりないだろうと松井証券が考えているのかもしれません。実はオリックス証券の手数料300円の一般信用取引の金利4.8%よりは低く抑えられています。 あとは、ゼロ金利解除で今後貸し出し意欲が向上するかもしれない地銀などの間接金融からの資金調達が容易になってくる可能性があり、それも後押ししていそうです。他の証券会社よりも高利なら、貸手としてはできれば松井証券に貸したいと考えるでしょう。松井証券はゼロ金利解除のタイミングを待っていたのかもしれません。 さて、利用者としては、まず手数料無料は何より嬉しい話です。しかし、念のため今まで自分が信用取引で金利をどれぐらい支払っていたのかを確認してみるといいでしょう。9月4日からは、松井証券の無期限信用取引を利用した場合、それまでの無期限信用の金利に比べて1.4倍、制度信用の金利に比べると、2倍の金利を支払うことになります。手数料が無料だからと言って、金利上昇分で今までの手数料以上に支払うことになっていれば意味がないです。計算上は、1ヶ月0.38%、1週間(5営業日)0.1%、1営業日0.02%以上の投資利回りを無期限信用で実現しないと金利負けします。 そういえば、無期限信用取引が開始したころ、上場不動産投資信託(REIT)を複数買建して、2ヶ月に1回ぐらいの配当収入で信用金利との利ザヤで儲ける手法が、松井証券のホームページで紹介されていましたが、手数料がなくなる分、まだ手法として使えるでしょうか?銘柄をパッと見たところ、現在の価格に対して予想利回りが5%〜6%の銘柄もあるようです。元本の値下がりが怖くない人はやってみてもいいかもしれません。(しかし、予定通りになっても利ザヤ1%〜2%でリスク高いので、長期の定期預金などの低リスク商品と比べると・・・。) あと、今年の手数料改定で1日の売買代金1億円以上だと、上限手数料10万5千円に止まりになりましたが、これにより手数料率の面で優遇されていた大口投資家の人は、無期限信用取引に限ってですが、小口の投資家に比べての優遇はなくなったと言えなくもないです。貧乏人と同等に扱われるのは嫌と言う人、やっぱりいますか?