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最新号の日経ビジネスのひと烈伝は、松井道夫氏でした。その記事の始めにネット証券評議会セミナーでの「地獄に堕ちろ」について書いています。「しまった」と思ったのではないだろうかと日経ビジネスは推察しています。実際松井氏が「しまった」と思っているかどうかはわかりませんが、「(直言癖は)単に僕がアホだから。」だそうです。
しかし掲示板への批判の投稿も、自らを奮い立たせる原動力にするとは、恐れ入りました。
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松井道夫氏 [松井証券社長]
怒りを力に喧嘩を糧に
1918年創業の兜町の中小証券を、インターネット株式取引の先駆者に。
社長業は変化対応業が持論。既成秩序の破壊に飽くなき執念を燃やす。
マラソンで言えば「まだ5km地点」。次の目標は株式の夜間取引だ。
単刀直入を旨とする松井道夫も、この時ばかりは「しまった」と思ったのではないだろうか。ネット証券評議会が9月4日(土)午後に東京・渋谷公会堂で開いた個人投資家セミナー。評議会の会長として講演した松井は、個人投資家に人気のある何社かを念頭において「地獄に堕ちろですよ、これは」と口を滑らせたのだ。
具体的な社名こそ上げなかったが、この発言を挟んで「株価水準が利益からでは説明できないぐらい高い」「訳の分からない株式分割をする」「投資家心理を手玉に取っている」「市場を自分の財布のように考えている」などと批判したから、会場にいた千数百人の個人投資家の大半はピンときた。
実際、市場では1対100、1対11といった大幅な分割をして、株価水準を大幅に下げ資金力が乏しい若い投資からの投機資金を招き寄せ、何百億円もの資金を調達しようという企業が目についていた。株式分割の権利落ちから新株発行までの上場か部数が少なくなる局面で大量の自社株買いを仕掛けた会社もある。「株価を何だと思っているのか」と思わず問いただしたくなることが起きているのだ。
松井は勢い余って「いずれ市場から数十倍、数百倍のしっぺ返しがある」とまで述べたから、当日の夕方からインターネットの掲示板は松井の発言をめぐる話題で持ちきりだった。匿名の掲示板だから、かなり割り引いて考えなければいけないのが、「よくぞ正論を言ってくれた」という反応はごく少数。多くは「松井さんはいつからそんなに偉くなったのか」「地獄に落ちるべきなのは松井の方」といった内容だった。
直言は不退転の証し
思ったことをあまり影響も考えずにそのまま口に出してしまうのは、善くも悪くも、松井の松井たるゆえん。本人も自覚しており、「(直言癖は)単に僕がアホだから。政治的な計算をしながら発言するなどという芸当はできないのです」と認めている。今回は松井流に慣れていない個人投資家が猛反発したわけだが、わざと自分のみに跳ね返ってくるような発言をし、自らを奮い立たせるのは、今日の松井証券を築いた自身の原動力でもある。
日本郵船に勤める一介のサラリーマンだった松井が、東京証券取引所の会員証券の中では末席に近かった松井証券を今日の地位にまで発展させた成功物語は、折に触れて紹介されている。オーナー社長の娘と結婚、経営を引き継いでからは、旧来の営業マンによる株式売買にこだわる社内の抵抗勢力を一掃。まずは電話による通信取引に、次にネット取引にかけたのだ。
今日の松井証券は個人投資家向けに限ってみれば、株式の売買取次ぎ金額では野村證券をも上回り、ソフトバンク系のイー・トレード証券に次いで第2位。イー・トレード証券がどちらかというと20代から40代を中心とする若い投資家に強いのに対し、松井証券はセミプロ級の投資家の評価に堪える売買システムを武器にしている。信用取引の顧客に貸している資金は約3000億円と野村證券のほぼ3倍だ。
経済同友会などで交流があるオリックス会長の宮内義彦は「自分のビジネスである証券会社の経営を、アイデアと実行力ですっかり変えた。オンライン取引という新分野を切り開き、先見性も証明した。それだけでも並みの経営者ではない」と松井を持ち上げる。
40代半ばで社長に就き、「若手財界人」の代表格だった宮内も古希を迎えた。昔の自分を振り返ると、最近の若い経営者には注文もあるという。
「競争が激しくて本業で手いっぱいのせいか、経済界をリードしよう、社会を変えようという気概をもつ人が少なくなっている」。だが松井は「単に経営者として立派なだけでなく、日本はこのままではいけないという公の志を持っている」というのだ。
宮内に冒頭の「地獄に堕ちろ」発言の感想を聞くと、「いかにも松井さんらしいね。物事をはっきり言うのは勇気がいることだけれども、その姿勢を他の経営者も評価しているのではないか」という答えが返ってきた。
一橋大学大学院・国際企業戦略研究科助教授の楠木建は松井を真の改革者だと見ている。「改革者には旧弊など世の中の問題を解決することに意欲を燃やすタイプと、夢のある世界の実現に意欲を燃やすタイプの2通りがある。後者はウォルト・ディズニーやソニーの井深大だが、松井は前者だ。」
松井は現実主義者で、「他人と諍いを起こさない」という意味では、けして「上品」ではない。二言目には「私がしているような株式の売買取次業務は、投資家が直接、市場に参加できるようになれば、要らなくなる。こんなビジネスは世の中からなくなることが理想なのですよ」などと言う。
楠木に言わせれば、松井はあえて悪者ぶる偽悪家。美術や文化にも強い関心を持つが、仕事を前にすると人間的な面を隠し、「しこたま」という言葉で自らを奮い立たせているように見えるという。
確かに、松井は「しこたま」という表現をよく使う。1時間あまりのインタビューでも、勢いづいてくると、数分に1回はこの言葉が出てくる。しかも冒頭のような直言癖。今でこそ傍若無人な物言いに慣れた人も多いが、証券界で活躍し始めた当初は、それこそ、しこたま敵を作ってきた。
松井は自らの原動力を「怒り」だと説明する。かつて勤めていた海運業は、戦後の復興期は国策産業として、政府が制度的、金銭的に保護してきた。ところが、1973年の第1次石油ショックを境に政府が自由化路線に切り替え、後ろ盾を失うと、海運業を持っていたのは、塗炭の苦しみだけだったという。競争相手は台湾のエバーグリーンなどコストが安いところだけではなかった。コストなどあってなきがごとしの中国や旧ソ連の国営海運会社とも戦わざるを得なかった。松井は価格破壊の恐ろしさを目のあたりにした。
それだけに、87年に証券界に転じたときに真っ先に感じたのは、「不快感」だったという。
「護送船団そのもので、金が天から降ってくるような感覚の商売をしていた。こんな世界が許されるなんてとにかく不愉快だった。海運業の話をしても、日本郵船が悪かったのではといわんばかりだった」と振り返る。
不愉感が続くうちに「怒り」を覚えた。何ゆえの怒りなのか、最初は釈然としなかった。だが次第に、怒りの矛先は免許で守られた証券業ならではの既得権益、既成秩序であることに気づく。
これまでにもいろいろな仕組みを壊してきた松井の目下の標的は、株式の夜間取引の実現を阻む勢力である。9月にイー・トレード証券、楽天証券、カブドットコム証券とともにネット証券評議会を立ち上げたのも、まずは共同で世間に必要性をアピールし、東証に圧力をかけるのが狙いだ。
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その2へ続く
■関連記事
・ネット証券評議会 松井道夫吠える!「わけのわからない分割、地獄に落ちろと言いたい」
・実質的にライブドアを指してる松井社長の「わけのわからない分割、地獄に落ちろ」について
![](http://srv2.trafficgate.net/t/b/17/728/74847/)
松井道夫氏 [松井証券社長]
怒りを力に喧嘩を糧に
1918年創業の兜町の中小証券を、インターネット株式取引の先駆者に。
社長業は変化対応業が持論。既成秩序の破壊に飽くなき執念を燃やす。
マラソンで言えば「まだ5km地点」。次の目標は株式の夜間取引だ。
単刀直入を旨とする松井道夫も、この時ばかりは「しまった」と思ったのではないだろうか。ネット証券評議会が9月4日(土)午後に東京・渋谷公会堂で開いた個人投資家セミナー。評議会の会長として講演した松井は、個人投資家に人気のある何社かを念頭において「地獄に堕ちろですよ、これは」と口を滑らせたのだ。
具体的な社名こそ上げなかったが、この発言を挟んで「株価水準が利益からでは説明できないぐらい高い」「訳の分からない株式分割をする」「投資家心理を手玉に取っている」「市場を自分の財布のように考えている」などと批判したから、会場にいた千数百人の個人投資家の大半はピンときた。
実際、市場では1対100、1対11といった大幅な分割をして、株価水準を大幅に下げ資金力が乏しい若い投資からの投機資金を招き寄せ、何百億円もの資金を調達しようという企業が目についていた。株式分割の権利落ちから新株発行までの上場か部数が少なくなる局面で大量の自社株買いを仕掛けた会社もある。「株価を何だと思っているのか」と思わず問いただしたくなることが起きているのだ。
松井は勢い余って「いずれ市場から数十倍、数百倍のしっぺ返しがある」とまで述べたから、当日の夕方からインターネットの掲示板は松井の発言をめぐる話題で持ちきりだった。匿名の掲示板だから、かなり割り引いて考えなければいけないのが、「よくぞ正論を言ってくれた」という反応はごく少数。多くは「松井さんはいつからそんなに偉くなったのか」「地獄に落ちるべきなのは松井の方」といった内容だった。
直言は不退転の証し
思ったことをあまり影響も考えずにそのまま口に出してしまうのは、善くも悪くも、松井の松井たるゆえん。本人も自覚しており、「(直言癖は)単に僕がアホだから。政治的な計算をしながら発言するなどという芸当はできないのです」と認めている。今回は松井流に慣れていない個人投資家が猛反発したわけだが、わざと自分のみに跳ね返ってくるような発言をし、自らを奮い立たせるのは、今日の松井証券を築いた自身の原動力でもある。
日本郵船に勤める一介のサラリーマンだった松井が、東京証券取引所の会員証券の中では末席に近かった松井証券を今日の地位にまで発展させた成功物語は、折に触れて紹介されている。オーナー社長の娘と結婚、経営を引き継いでからは、旧来の営業マンによる株式売買にこだわる社内の抵抗勢力を一掃。まずは電話による通信取引に、次にネット取引にかけたのだ。
今日の松井証券は個人投資家向けに限ってみれば、株式の売買取次ぎ金額では野村證券をも上回り、ソフトバンク系のイー・トレード証券に次いで第2位。イー・トレード証券がどちらかというと20代から40代を中心とする若い投資家に強いのに対し、松井証券はセミプロ級の投資家の評価に堪える売買システムを武器にしている。信用取引の顧客に貸している資金は約3000億円と野村證券のほぼ3倍だ。
経済同友会などで交流があるオリックス会長の宮内義彦は「自分のビジネスである証券会社の経営を、アイデアと実行力ですっかり変えた。オンライン取引という新分野を切り開き、先見性も証明した。それだけでも並みの経営者ではない」と松井を持ち上げる。
40代半ばで社長に就き、「若手財界人」の代表格だった宮内も古希を迎えた。昔の自分を振り返ると、最近の若い経営者には注文もあるという。
「競争が激しくて本業で手いっぱいのせいか、経済界をリードしよう、社会を変えようという気概をもつ人が少なくなっている」。だが松井は「単に経営者として立派なだけでなく、日本はこのままではいけないという公の志を持っている」というのだ。
宮内に冒頭の「地獄に堕ちろ」発言の感想を聞くと、「いかにも松井さんらしいね。物事をはっきり言うのは勇気がいることだけれども、その姿勢を他の経営者も評価しているのではないか」という答えが返ってきた。
一橋大学大学院・国際企業戦略研究科助教授の楠木建は松井を真の改革者だと見ている。「改革者には旧弊など世の中の問題を解決することに意欲を燃やすタイプと、夢のある世界の実現に意欲を燃やすタイプの2通りがある。後者はウォルト・ディズニーやソニーの井深大だが、松井は前者だ。」
松井は現実主義者で、「他人と諍いを起こさない」という意味では、けして「上品」ではない。二言目には「私がしているような株式の売買取次業務は、投資家が直接、市場に参加できるようになれば、要らなくなる。こんなビジネスは世の中からなくなることが理想なのですよ」などと言う。
楠木に言わせれば、松井はあえて悪者ぶる偽悪家。美術や文化にも強い関心を持つが、仕事を前にすると人間的な面を隠し、「しこたま」という言葉で自らを奮い立たせているように見えるという。
確かに、松井は「しこたま」という表現をよく使う。1時間あまりのインタビューでも、勢いづいてくると、数分に1回はこの言葉が出てくる。しかも冒頭のような直言癖。今でこそ傍若無人な物言いに慣れた人も多いが、証券界で活躍し始めた当初は、それこそ、しこたま敵を作ってきた。
松井は自らの原動力を「怒り」だと説明する。かつて勤めていた海運業は、戦後の復興期は国策産業として、政府が制度的、金銭的に保護してきた。ところが、1973年の第1次石油ショックを境に政府が自由化路線に切り替え、後ろ盾を失うと、海運業を持っていたのは、塗炭の苦しみだけだったという。競争相手は台湾のエバーグリーンなどコストが安いところだけではなかった。コストなどあってなきがごとしの中国や旧ソ連の国営海運会社とも戦わざるを得なかった。松井は価格破壊の恐ろしさを目のあたりにした。
それだけに、87年に証券界に転じたときに真っ先に感じたのは、「不快感」だったという。
「護送船団そのもので、金が天から降ってくるような感覚の商売をしていた。こんな世界が許されるなんてとにかく不愉快だった。海運業の話をしても、日本郵船が悪かったのではといわんばかりだった」と振り返る。
不愉感が続くうちに「怒り」を覚えた。何ゆえの怒りなのか、最初は釈然としなかった。だが次第に、怒りの矛先は免許で守られた証券業ならではの既得権益、既成秩序であることに気づく。
これまでにもいろいろな仕組みを壊してきた松井の目下の標的は、株式の夜間取引の実現を阻む勢力である。9月にイー・トレード証券、楽天証券、カブドットコム証券とともにネット証券評議会を立ち上げたのも、まずは共同で世間に必要性をアピールし、東証に圧力をかけるのが狙いだ。
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その2へ続く
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